家の裏庭に私は居るんだろう。
だが、妙だ。
何故か私の背丈より高い草木が生えている。
まるでテレビで見た密林のようだ。
何故?なぜ、こんな状態なのだろう。
頭を捻ってみるが、答えは出ない。
解るのは、ここが私の家の裏庭ということだ。
私を囲む密林を見渡すと家の屋根を見つけることが出来た。
私はとりあえず、家に向かって歩き出した。
変だと気がついたのは、少し前のことだ。
歩けど歩けど、密林から出られない。
家はそこに見えているのに、何故辿り着かないのだろう。
変だ、妙だ、可笑しいと呟きを繰り返しつつ、私は歩き続けていた。
今が昼なのか夜なのかすら判らない。
暑いのか寒いのかすら気がつかない。
気がつかないことに気がついていても、やはり、気がつかない。
音すら聞こえない密林を、ずっと歩いていた。
いい加減に面倒になってきた時、近くで鳴き声が聞こえた。
同時に音が急に聞こえ始める。
唸るような声、草木の重なり合う音。
徐々に近づいてくるその音に、急に恐怖を感じ……
―――怖い
そう思った瞬間、目の前に大きなゴリラのような生き物がいた。
色も形も、見えているはずなのにやけに不鮮明だ。
大きくて、ゴリラのような生き物。
それが、私の認識だった。
逃げなくては
すぐに反転し、走り始めた。
顔や体に草木が当たっているはずなのに、何も感じない。
逃げなきゃ、はやく、逃げなきゃ
私を動かしていたのは、確かな恐怖。
息が切れようが、足がもつれそうになろうが、懸命に走りつづけた。
音が、そう、木々の踏み倒すような音。
声が、獣特有の唸り声と荒々しい息が、私のすぐ後ろで聞こえていた。
追われている?
なんで?
死んじゃう
誰か、誰か
―――助けてくれ!!
頭で思う事と声に出ているのは、全く違うものだった。
ただ、ひたすらに声にならない叫び声を上げ続け、そして、逃げるしか出来なかった……
――― 「自転車」 ―――
思い出を振り返って見たときがある。
何時だと聞かれれば、今だと、今日だと答える。
常に忘れるこの無い思い出。
常に忘れている、あの思い出。
太陽が頂点に立ち、梅雨を忘れたかのような日差しが続く。
その昼のさなか、なんとなく自転車に乗り走り出した。
「どこに行くの?」
と聞かれれば
「……さぁ?」
と答える。
つむじの辺りが妙に熱い。
いや、暑いだろうか?
漕ぎ出した自転車は快調に進んでいく。
とりあえず目に映った山へと、ゆっくりと、ときにせわしく、進んでいく。
ある坂を登り、次に下って行く。
登る時に汗をかき、下る時には心地良い。
右手に小学校が見えてくる。
随分昔に通っていた小学校だ。
懐かしさに浸りながら、坂道でついた速度をさらに加速させて行く。
風の音さえ聞こえるような感覚。
思わず叫んでしまいたくなるような衝動に駆られる。
そんな風に一人はしゃぎながら、自転車を進ませていった。
隣町までの途中に、これぞ田園という風景がある。
日差しに照らされた所為か、この時期特有の所為か。
焼けた草の匂い?田んぼの匂い?
どこかで嗅いだことのある匂い、何と言うか、どこか懐かしい匂いがしていた。
雲ひとつ無い空。
蒼い青い空。
降り注ぐ日差しが、目に入る風景が、心を躍らせる。
息を切らせるほどに懸命に漕ぐ。
掻いた汗は、流れる風任せ。
目的の場所はわからない。
ただ、何かを懐かしむように走りつづけた。
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