――― 序章 第1話 幕間 ――― 「お風呂」 ―――
寒い廊下を足早に通り、脱衣所に駆け込む。
服を脱ぐ前に浴室に入り、風呂ふたを開けておく。
脱衣所に戻った後、テキパキと服を脱いでいく。
「あ〜寒っ」
上半身はすでに裸となり、あとは下を脱ぐだけなのだが、
あまりの寒さゆえに、つい、当たり前の独り言が口に出る。
脱衣所には、何かしらの暖房器具があるといいと思う。
下着一枚になったところで、脱衣所の鏡に向かって、
無意味にポーズを決める。
貧弱な肉体が鏡に映っているだけだが、ソレは気にしない…
ある程度、空手やボクシングのシャドーのようなナニカをこなし、
体が温まった後で、体重計に乗る。
ジャスト60キロ…まぁ、増えるような生活はしていないので、変動は無い。
「ふぅ…もうちょっと体重が欲しいよな…そう、後…10キロ?」
誰もいない脱衣所で、下着一枚の男子高校生が、独り言を言う…
なにやら薄ら寒いものを自身で感じつつ、溜息と共に下着を脱ぐ。
…心底どうでもいい事に悩んでいる、そう思った…
「寒い寒い〜」
浴室は、開けておいた風呂ふたのおかげで、湯気で視界があまり良くない。
近眼が酷い私は、はっきり言って何も見えない状態だ。
洗面器で浴槽から湯を拾い、ジャバジャバと身体にお湯をかける。
「アツッ、あちぃ〜」
簡単に湯をかけた後、シャワーを捻り一旦身体の汗を落とす。
足先から、そっと浴槽に身体を沈めて行く。
何ともいえない心地良さと身体の芯から温まる感じがたまらない。
「ぁ〜つぅ〜あぁ〜」
何語か分らない擬音を発しながら、浴槽に身体の全てを沈み込ませる。
浴槽の中で、ぼんやりと天井を見つめ、付いている水滴を数える。
あまり、家の風呂に魅力を感じない私も、冬場だけは風呂は素晴らしいと思う。
「……ふぁぁ〜ぁ〜…」
眠気を誘う湯加減についつい欠伸が出てしまう。
ひとまず髪を洗おうかと、浴槽から出るべく縁に手をかけたとき、
ガラスの割れるような音と、父の怒声が聞こえてきた。
「このっ!この馬鹿が!!殴られなきゃ分らんか!!」
「お父さんが馬鹿なんでしょっ!!」
「お父さん!夏海!二人とも止めなさい!」
父、姉、母が喧嘩しているようだ。
ガラスが割れたような音は気になるが、私は何時ものことと諦め、
溜息をつきつつ、また浴槽に身体を沈めた。
「毎回毎回、よく飽きなぇな、あいつら…」
まぁ、馬鹿なんだろっと呟き、頭の悪い家族に呆れ果てる。
湯船で顔を軽く洗い、また、溜息をつく。
気分よく入っていたのを邪魔されて、酷く不愉快な想いを感じる。
「大体、お父さんは何時も私の言うこと聞かないじゃない!」
「お前が馬鹿だからだろうが!!」
「いい加減にして!今、何時だと思ってるの!?」
煩ぇなぁ、と思いつつ、髪を洗うために浴槽を出る。
自分用のシャンプーを手に取り、シャワーを出す。
しばらくシャワーで髪を洗い、適量のシャンプーを手に落とし、髪に雑ぜていく。
「…だから…で、…なんでしょ…」
「…大体…前が………鹿が…」
「……止め…い…減に…」
髪を洗うために出し続けているシャワーのおかげで、雑音もあまり聞こえない。
しかし、気分を害された事で荒々しく髪を洗うことになる。
いなくなればいいのに…口に出さず心の中で密かに思う。
あの仔がウチに来る、二週間程前のことである。
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