追記にあります。
それだけのことを書いてみました。
ええ、それだけのことです^^
では、ドゾ、ドゾ。
朝の五時、緊張からか目が覚める。
昨日は中々寝付けず、実質三時間ほどしか寝ていない。
体は重さを感じるが、妙に頭はクリアな気がする。
ベッドから降り、カーテンを開ける。
鳥の声が聞こえ、日が昇りつつある外の景色。
目に入る日差しが、より目を覚ましていった。
――― 「それだけのこと」 ―――
朝ご飯を食べるにはまだ早い。
階下に降りて、新聞を取る。
顔を洗い、歯を磨く。
水の冷たさが、さらに目を覚ましていく。
鏡を睨みつける自分自身を見ながら、大きく息を吸い、吐く。
時間は、まだ六時にもなっていない。
天気予報すら流れない時間であり、未だ家族は起きてこない。
一度、部屋に戻り財布を手に取る。
中から三百円だけ取り、煙草を買いに家を出た。
玄関を開け、外に出てみれば、薄っすらと靄が掛かったような景色だ。
日差しが明るくなり始めているのに、白さを感じる景色は、
どこか静けさと孤独を感じる。
少し、肌寒い風が吹く中、自販機へと足を向けた。
購入した煙草をその場で開け、火を点ける。
朝の澄んだ空気が濁っていく。
体の中から、ありとあらゆる物を吐き出すように、白い煙が空に溶けていった。
家に戻り、部屋の中から卸し立てのスーツのビニールを取り始める。
同じくノリのついたワイシャツ、固めたネクタイ。
洗ったばかりの靴下も忘れない。
鞄の中の書類と、ノートに筆記用具。
抜けが無いかを今一度チェックする。
準備に抜けが無いことを確認しても不安はある。
自分自身の臆病さと、なれない事への緊張感。
昨日から、いや正確には、決まってからの一週間。
何度、同じ事をしているのか。
時計を見れば、六時を廻っている。
そろそろ、家族が起きる時間だ。
自室に掛けたスーツを、もう一度じっくりと眺め。
朝食の為に下へ降りていった。
朝食の間、家族は気を使ってくれたのだろう。
一切、私のことは話題にならなかった。
何時もと違い、多少静かな朝ご飯を食べながら、より緊張が増していった。
朝のニュースを食後のお茶を飲みながら見ている。
目に入るようで、耳に聞こえているようで、それは一つの景色でしかなかった。
二杯目のお茶を貰いつつ、同時に煙草に火を点ける。
時間は、まだ七時になったばかりだった。
時間までは、後、三時間もある。
家からは電車で行くとしても、二時間以上の空き時間がある。
早く起きすぎたことを、若干後悔しつつ、この時間を有効に使うべきと思い直す。
何度も何度も見た資料を、またも見る。
この質問がきたらこう、こう質問されたらこうっと頭の中で繰り返す。
高鳴り続ける心臓を押さえつけるように、繰り返し繰り返す。
時間が八時になる頃に、煙草に火を点け、着替えを始めた。
全身を映す鏡に映った自分自身を、穴が開くほどに見直す。
服の汚れが無いか、髪の乱れは無いか、丹念にチェックする。
家族にも見てもらい、どこかに乱れが無いかを確認していく。
大きく息を吐き、鞄を手に持つ。
「行って来ます」
頑張ってとの声、落ち着いてとの声。
家族の声を受けつつ、私は最終面接へと向かって行った。
駅につくまでも、考えることは面接の事。
質問を上手く答えられるかが、何より心配だった。
生来のあがり症ゆえの悩みだが、その場に立てばそれは消えて無くなる。
時間が緊張感を増幅させ、自分で勝手に重りを増やしていく。
それは判っていても、自分では止められないことだった。
駅についた後、構内を見れば同じようにスーツを着ている人が多い。
当然のことなのに、周りから自分がどう思われているのかが、ひどく気に掛かった。
馴染の売店で、今日面接なんだと、笑いながら話す。
そう、頑張ってと言われ、任せてくれと答える。
薄っぺらな自分を見抜かれたようで、気持ちが沈んだが、
他人と会話することで、会話に出すことで、少し気が楽にもなった。
電車に乗り込む。
さすがに出勤時間であり、混んでいる。
吊革に捕まり、自分のこれからを想像する。
面接試験ではなく、その先の自分。
今と同じように、吊革に捕まり眉を寄せ、電車に揺られているのだろうかと。
目的の駅で着く、電車を降りる時に緊張からか膝が笑った。
情けないと思いつつ、気持ちを入れなおし駅を背にした。
面接を受ける会社までは、駅から近い。
歩いて十分ほどだろう。
時計を確認すれば、まだ九時前。
後、一時間も時間がある。
三十分前には、到着して居たいので、あと三十分程どこかで時間を使う必要がある。
駅の前の喫茶店にでも入ろうかと考えていた。
朝の駅。
勿論、多くの人で賑わっている。
耳を澄まさなくても、辺りの人からの声は聞こえる。
駅の階段を下り、駅前の喫茶店へ向かおうとした私の後ろから、その声は聞こえた。
振り返って見れば、お年寄りが4人、階段を降りてくる。
手すりにつかまってはいるが、手には持つには大きすぎる荷物を持ち、
背にも、まるで昔話のような荷物を背負っている。
危ない危ないと、恐らく夫婦であり友人同士の集まりなのであろう。
手すりに掴まらずも降りて来られる男性に、手すりに掴まった一人が荷物を渡している。
フラフラとしながらも、その男性は荷物を受け取り、階段を降りてくる。
私は、何故かその老人達から目を離すことが出来ずにいた。
「荷物持ちますよ」
そう、言ったのは何故だろう。
階段を駆け足で登りなおし、私はそう言っていた。
老人達は、すんなりと私の申し出を受けてくれて、荷物を私は受け取った。
一度、手荷物のみを受け取り、下まで置きに行く。
もう一度、階段を登りなおし、背中の荷物も下へ運ぶ。
意外な運動で、少し汗を掻いた。
「ありがとうな」「助かりました」
「いえいえ、それでは」
その汗も気にならないくらい、私の気持ちは高揚していた。
老人達に手を振りつつ、喫茶店へは向かわずそのまま進む。
目に映っていなかった景色は、明確な色を付け、歩く人の顔がよく見える。
高鳴る鼓動は、朝とは違う。
強く強く、気持ちの変わった自分を意識しながら、面接会場へ向かった。
席に座って自分の番を待つ。
名前を呼ばれる。
席を立ち、ドアをノックする。
「どうぞ」との声。
ドアを開け、一礼する。
「宜しく、お願いします」
自分から出た声には濁りが無い。
体は芯が入ったかのように良く動く。
気持ちは昂ぶっているようでどこか静かだ。
自分の目に力が入っているのを感じる。
―――受かる
そう、思った。
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