――― 「自転車」 ―――
思い出を振り返って見たときがある。
何時だと聞かれれば、今だと、今日だと答える。
常に忘れるこの無い思い出。
常に忘れている、あの思い出。
太陽が頂点に立ち、梅雨を忘れたかのような日差しが続く。
その昼のさなか、なんとなく自転車に乗り走り出した。
「どこに行くの?」
と聞かれれば
「……さぁ?」
と答える。
つむじの辺りが妙に熱い。
いや、暑いだろうか?
漕ぎ出した自転車は快調に進んでいく。
とりあえず目に映った山へと、ゆっくりと、ときにせわしく、進んでいく。
ある坂を登り、次に下って行く。
登る時に汗をかき、下る時には心地良い。
右手に小学校が見えてくる。
随分昔に通っていた小学校だ。
懐かしさに浸りながら、坂道でついた速度をさらに加速させて行く。
風の音さえ聞こえるような感覚。
思わず叫んでしまいたくなるような衝動に駆られる。
そんな風に一人はしゃぎながら、自転車を進ませていった。
隣町までの途中に、これぞ田園という風景がある。
日差しに照らされた所為か、この時期特有の所為か。
焼けた草の匂い?田んぼの匂い?
どこかで嗅いだことのある匂い、何と言うか、どこか懐かしい匂いがしていた。
雲ひとつ無い空。
蒼い青い空。
降り注ぐ日差しが、目に入る風景が、心を躍らせる。
息を切らせるほどに懸命に漕ぐ。
掻いた汗は、流れる風任せ。
目的の場所はわからない。
ただ、何かを懐かしむように走りつづけた。
Comment
Track Back
| TB*URL |
| ホーム |


