胴を何時もよりきつく閉める。
紐の緩みがないように、数回、紐の端を合わせて張り直す。
手拭を頭に巻きつけ、対戦相手を見る。
開始時間はもうすぐ、一呼吸置いてから面を着ける。
胴よりもきつくきつく紐を締めていく、自分の心臓の音がやけに近くに聴こえる。
落ち着け落ち着けと深呼吸を繰り返す。
小手を嵌め、2、3度握り直す。
呼び声と共に威勢良く返事を返し竹刀を手に取り、開始線へと向かった。
――― 題名 ――― 「試合」 ―――
――互いに礼!
審判の声を聞きつつ、開始線で蹲踞の姿勢をとる。
竹刀の先端が微かに触れ合う。
相手からは目を逸らさない、相手もまた目を逸らさない。
――始め!!
開始の合図と共に、お互いに気合を発する。
前後左右に摺り足で動き、先端を軽く合わせ、弾き、声を発する。
互いに隙を見出し、相手に一撃を加えんとする。
本来ならば、試合場には多くの音がする。
しかし、今は聴こえない、聴こえるものは自分の声、相手の声。
見える物は目の前の相手。
この緊張感、この静寂感、なんと心地良いことだろう。
相手の発する声が一層強さを増した。
――来る
飲み込まれまいと、気合を発する。
相手が僅かに振りかぶる、同時に右に踏み込みつつ空くはずの胴を狙う。
――めぇぃん!!
――どぉうぉぉだぁぁ!!
瞬間に左側頭部に叩かれた痛みと音を感じる。
僅かに早く相手の胴を薙ぎ、乾いた音と取ったっという思いと共に相手の横をすり抜ける。
残心をしつつ審判の旗を確認する。
旗は挙がる事無く、下で左右に振られる。
その判断は同時だろう、互いに気合を発すると共に踏み込んだ。
相手は再度面、こちらは出小手。
――確実に取った!
確信と共に息を吐き出す。
相手の左脇を抜け、副審の旗が挙がった。
――良し!
――めいぃぃん!
正面に向き直ったときには、主審の旗は相手側の旗が挙がり、試合の終わりを告げていた。
昔、剣道をしていたときの負け試合を文章化してみた。
相手は、結構有名な人で、勝ち目なんてまぁちょっとあったぐらい?
出小手を打った後、取ったと思った油断、副審の旗をみて勝ったと思った思い込み。
それが結局敗因でした。
面を打たれた後は一瞬呆然とした。
そして、友人達に馬鹿にされた・・・そんな思い出です。
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